検索結果の削除についての最高裁決定
平成29年1月31日、過去に逮捕歴のある男性が検索サイト「google」に表示される検索結果の削除を求めた裁判で、最高裁が、削除を認めない決定を出しました。
この決定は、最高裁が初めて検索結果の削除についての一応の判断基準を示したものとして注目されました。今回は、この最高裁の決定についてみていきたいと思います。
このケースは、過去に罰金刑を受けた男性が、事件後3年を経過してもまだ名前と住所で検索すると、犯罪に関する記事が表示されるとして、さいたま地方裁判所に対し、検索結果の削除を求める仮処分を申し立てた事案です。
さいたま地裁では、平成27年12月に「一度は逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえども、人格権として私生活を尊重されるべき権利を有し、更生を妨げられない利益を有するのであるから、犯罪の性質等にもよるが、ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』を有するというべきである」等として、該当記事の削除を認めました。
これに対し、google側が東京高等裁判所に抗告をしました。東京高等裁判所では、本件犯行を知られること自体が回復不可能な損害であるとしても、そのことにより直ちに受忍限度を超える重大な支障が生じるとは認められないこと等を考慮すると、表現の自由及び知る権利の保護が優越するというべきと判示し、記事の削除を認めませんでした。また「忘れられる権利」は名誉権やプライバシー権に基づく差し止め請求と同じものであり、忘れられる権利として独立して判断する必要がないとも指摘しました。
そして、平成29年1月31日、最高裁は、①表示された事実の性質・内容、②プライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、③その者の社会的地位や影響力、④記事の目的や意義、⑤記事が掲載された時の社会的状況とその後の変化、⑥事実を掲載する必要性など、事実を公表されない法的利益と情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当であるとの判断を示しました。その上で、児童買春が社会的に強い非難の対象であり、今なお公共の利害に関する事項である等として、検索結果の削除を認めない決定をしました。
現在、インターネット上の情報の複製と頒布は非常に容易であり、多数のウェブページに個人の名誉を侵害し、あるいはプライバシーを暴露する記載がされると、個々のウェブページ管理者に対する削除請求をすることは、極めて困難です。そのような場合、名誉ないしプライバシーの実効的な保護のためには、検索サービスによる検索結果に表示されないようにする措置をとらざるを得ない場合があることは否定できません。今回の最高裁決定は、検索結果からの削除の判断にあたっての考慮要素を示しました。しかし、明確な判断基準が示されたとはいえず、検索結果の削除の判断基準の形成については、今後一層の事例の集積が待たれるところです。